あなたは上の写真を見てどの色のソファーが目立つと思いますか?写真を5秒間、じーっと見つめて心の中で色を決めてください。赤でしょうか?それとも白?グレーだと思った方はほとんどいないと思います。デザインのぼりショップ店長の井口茂樹です。今回はデザイナーの視点から色の見え方、目立ち方について説明したいと思います。

まず上のアンケート結果をご覧ください。以前、5,000人超の方々にアンケートをご協力をいただきました。(2012年実施、5,838件、男女比6:4)

このアンケートの狙いは「とにかく目立つように」「派手にしたい」という飲食店経営者から多く寄せられる依頼が果たして本当に集客に繋がっているのか?という素朴な疑問からでした。結果はこの「焼肉」のぼり旗を含む20サンプル全てにおいて当店のデザインしたのぼり旗のお店に入りたいというものでした。(Q1.では他社イメージが選ばれることもありましたが、Q2.では20サンプルでほぼ7:3以上の差で当店のデザインが選ばれました)

この時のアンケートでは「目立つ」よりも「入りたい」が大事だと伝えたかったのでまあ良いのですが、この結果を見た時に私はQ1.の「どちらが目立つ?」でも当店のデザイン(右:白地)の方が圧倒的に目立つのになぁと思いました。

また、お客さまからよく寄せられる質問「どの色が目立ちますか?」という答えには「背景によって変わりますが、基本的には白です」とお答えしています。あなたは理由も説明されずに「白色が目立ちます」と言われて納得できますか?もし、納得できたらとても素直な人ですね。

それでは、他社のぼり旗イメージ(左側:赤)の方が目立つと思っている73.4%の方へデザイナーの目線から少し説明したいと思います。

まず、20代、30代、40代、50代、60代以上の5カテゴリー男女それぞれ100人、合計1,000人にアンケートをとりました。アンケートは合計3つです。A、Bのどちらかを選ぶだけです。

A

B

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1. どちらのデザインの「焼肉」のぼり旗が目立つ?

まず1つめのアンケートです。グレーの空間に置かれたのぼり旗。どちらが目立つでしょうか?1,000人のアンケート結果は…





A(赤いのぼり旗)が目立つと答えたのは67.2%
B(白いのぼり旗)が目立つと答えたのは32.8% でした。

あなたはどちらを選びましたか?2012年に行ったアンケート(白い背景の中に配置されたデザイン)では73.4%が赤いのぼり旗、26.6%が白いのぼり旗を選ばれました。それに比べると差は縮まっています。とはいえ、多くの方はA(赤いのぼり旗)を選んでいますね。

A

B

2. どちらのデザインの「焼肉」のぼり旗が目立つ?

次に2つめのアンケートです。街中に置かれたのぼり旗の写真。どちらが目立つでしょうか?1,000人のアンケート結果は…





A(赤いのぼり旗)が目立つと答えたのは41.1%
B(白いのぼり旗)が目立つと答えたのは58.9% でした。

あなたはどちらを選びましたか?なんと、B(白いのぼり旗)が逆転しましたね。何が原因でB(白いのぼり旗)?を選んだ方が増えたのでしょうか。

A

B

3. どちらのデザインの「焼肉」のぼり旗が目立つ?

それでは最後のアンケートです。街中に置かれたのぼり旗のモノクロ写真。どちらが目立つでしょうか?1,000人のアンケート結果は…





A(赤いのぼり旗)が目立つと答えたのは5.3%
B(白いのぼり旗)が目立つと答えたのは94.7% でした。
圧倒的な差ですね。

あなたはどちらを選びましたか?ほとんどの方が、B(白いのぼり旗)を選んだと思います。「モノクロ写真にしたんだから当たり前だろ!」という声が聞こえてきそうですね。そうなんです。当たり前なんです。(笑)

少々、専門的な話しになりますがお付き合いください。色彩を色の三属性(色相、明度、彩度)によって表現するマンセル・カラー・システムという体系があります。

【色相:しきそう】は赤、黄、緑、青、紫といった単なる色の違い。
【明度:めいど】は色の明るさ。
【彩度:さいど】は色の鮮やかさ。

ではその3つ(色相、明度、彩度)のうち、どれを真っ先に脳が認識するかということが大事になってきます。真っ先に「バーン」と脳が認識するのは【明度差】なんです。明るいか暗いかを認識します。

その次が【色相差】、【彩度差】の順になります。この明るいか暗いかを現したのが「モノクロ写真」なんです。明度差が大きいほど、よく目立ちます。明度差が大きいことを「コントラストが強い」とも言います。

2つめのアンケート(街中のカラー写真)で、A(赤いのぼり旗)が目立つと答えた41.1%の方の多くは瞬間的には、B(白いのぼり旗)が目立つと脳が判断したにも関わらず、【明度差】の次に認識する【色相差】に惑わされて、A(赤いのぼり旗)が目立つと答えた(と推察される)のです。少し難しく説明しましたが、カンタンにいうと周りの背景(の明度)によって目立ち方は変わるのです。

のぼり旗単体の色だけでは決まらないのです。その周辺の明度差や色味を考慮して選ぶことが大切になります。逆にのぼり旗を立てようとする場所が非常に明るい印象のところなら、真っ黒な旗が目立つということもありえます。

例えば、スキー場のゲレンデ(雪景色の白い背景)にのぼり旗を立てるなら明度の低い(暗い)色を選べば良いのです。つまり、スキー場のゲレンデなら、A(赤いのぼり旗)が目立つのです。(入りたいかは別にして)

ちなみに冒頭のソファーの写真をモノクロ写真にしたものを見ると、意外と赤いソファーは暗いと思いませんでしたか?実はデザイナーの多くは明度をとらえることが得意なのです。私も美大受験の頃、イヤというほどデッサンを重ねてきたのが役に立っているのかもしれません。デッサンとは木炭や鉛筆でモノを描き、正確なカタチや質感、空間を表現することです。日頃から世の中の風景をモノクロ化する訓練をしていたともいえます。

さて、あなたのお店の周りはどんな景色ですか?モノクロ写真にしたら、暗いですか、それとも白っぽい感じですか。多くの方はどちらかというと「暗い感じかな」とおっしゃいます。でしたら明度差の関係で「白いのぼり旗が映(は)えます」とお答えします。

ただ人間の脳は極めて高度なので目立つかどうかだけに気を取られると足をすくわれます。もう、そのへんは「センス」という便利な言葉で片付ける方がよいのかもしれませんね。